稲葉浩志「Lone Pine」を語る|Lone Pine

動画書き起こし

イナソロ一日一曲!今回は「Lone Pine」。

のどかな大地を思わせる音

この曲は大好きなんですが、特に理由がないんですよね。いい機会なので、なぜ好きなのかっていうのを考えてみます。

まず、全体的なゆるいムードがいいですね。8分の6拍子で、アコースティックギターが「ジャンジャカジャカ、ジャンジャカジャカ…」って爽やかに弾いている。

そこに、稲葉さんのブルースハープが「ピューーゥン♪」って乗っかってきて、すごくのどかな大地を思わせるサウンドですね。

日常を描く歌詞の魅力

歌詞の内容は…なんか日常ですね。

「贔屓のチームの勝敗が」…Lone Pineってアメリカの地名なので、アメフトか野球あたりでしょうか。その勝敗が「今夜の気分を左右する」とか、あとは「夢は夢のままでいいと思ってしまう」とか。

誰しもそういう倦怠感というか、「満足しているようで、できてない現状」みたいなものって抱えてるよなぁっていう。そこをほんのり繊細に描いてるのが、すごく聴き心地がいいなって思いますね。

「きっとこれがベストな形じゃない」

歌詞のディテールも良いです。君との関係について、「きっとこれがベストな形じゃない」ってね。

「君の肩に手を回すけど きっとこれがベストな形じゃない」って言ってる。表面上はうまくいってるように見えてるんだけど、心の中ではあまり良いとは思いきれてなくて…。

それはきっと「君」のほうもそうなんだろうな、みたいな? そのグレーな感じ、心のグラデーションがすごく描かれてて、やっぱりここは稲葉さん上手だなぁって感じますね。

「緩慢な日々をやり過ごして」

「緩慢な日々をやり過ごして 夢は夢のままでいいと思ってしまう」──ここ大好きなんですよね。退屈な日々じゃなくて「緩慢な日々」なんですよ。「ゆるい」に慢性の「慢」でカンマン。何もないわけじゃないけど、取り立てて何かあるわけでもなくて、刺激が足りない感じ? ですよね。

しかも、「やり過ごす」ですからね~。事が荒立たないように器用にほどよく処理するみたいな。「手を抜いてる」に近いのかもしれないけど、でも手を抜いてるっていうほど雑な感じではなくて。絶妙な言葉だなって思います。

あとは「夢は夢のままでいいと思ってしまう そんなものなんだって学んだよ」っていうのが、すごく切ないですよね。私は大学生の頃にこの曲を聴きながら「こういうものなのかもな、人生って…」って、なんだかすごく考えさせられました。そういう歌詞…ですね。

全体的にほんのりしたムード

ただ、稲葉さんの他の曲みたいにダークな部分に鋭く切り込むわけでもない。かつ、最後はポジティブになっていくけれど、そんなにアクセル踏む感じでもなくて、全体的にほんのりしてるんですよね。

内省的な部分も、前向きな部分も…なんか全部ほんのりしてる! 激情がないですよね。激しい感情がないから全体的なムードが好きで、だからこそ「特に理由なく好き」って思える曲なんだろうなって思います。

だからなんか、外を歩いてて気分をリラックスさせたい時とかに聴いてる気もするし、なんか自分の生活と共に歩んでくれるような温かい曲だなって思いますね。人間の弱さというか至らなさとか、不完全な部分も含めて、ちょっと受け入れてくれるような感じ?

だけど、「でもそれだけじゃダメかもね?」みたいな…懸念事項をちらつかせてくれる感じ(笑)なんかそこがすごく好きですね。

Lone Pineと死の谷

Lone Pineは具体的、実際に存在する地名ですね。地図とか検索してみてほしいのですが、なんか寂しい街ですね。何もなさそうな、ちょっとさびれた街という印象を写真からは受けました。まぁでも稲葉さんインタビューでは「こんな寂しい街に描きやがって」って現地の人から怒られるかもしれない……と語ってましたけれども(笑)

「死の谷」っていうのも実際にあって、デスバレーってやつですね。すごく怖い感じの名前ですけど、実際怖い感じの険しい谷だなっていう印象でしたが、その付近にある土地がLone Pine!

だから「死の谷を突き進み いくつものカーブを曲がり」と歌っているんですね。Lone Pineに向かってるのか、あるいは出て行ってるのかも。

でも、実在するLone Pineや死の谷のことを抜きにしても、「低く垂れ込めた雲がこの街と 僕たちを包んでいる」っていうふうに、ちょっと不穏な描写で2番のサビが終わります。そこから「死の谷を突き進み」っていう展開…。

でもその向こう側に「何が待ってるというの?」っていう、先への期待と不安とを描いています。そうやって最後のサビへと一気に突き抜けて、ふわぁーっと爽快感が広がる! そんな展開ですね。

曇り男、稲葉さん。

最後はすごく前向きですね!

「いつもより力強く 君の手を握りしめて 昨日よりもマシな日にしてみたい きっとできるはずだろ」って。

「きっとできるはずだろ」って、すごく好きなんですよ! 「きっと」って可能性だけど、「はず」確信というか、論理的な帰結じゃないですか。だから「推測」と「確信」が両方あるかんじ? 日常会話でも「きっと〜なはずです!」って普通に言う言葉だと思うんですけれども、なんか歌でそれが出てくるのがリアルだなーと思って。そこもなんか曇りというかグレーというか、晴れきってもいないし、曇りきってもいないなと思いますね。

稲葉さんのMCで、たしかenⅡの最終日でしたが、印象的なものがあります。その日、曇っていて、「晴れ男とはいかなかったけど、くもり男として歌いますわ」みたいなことを言っていました。

でも、天気だけじゃなく歌詞も「くもり」が多いですよね。稲葉さんって本当に「くもり」が似合う人だなって思います。雲が6割ぐらいになることもあれば、9割、10割っていう、まさに気象学上でも曇りと定義されるくらい暗闇になることもある。

でも、完全にどっちかに振り切れることってそんなになくて。だからこそいろんな場面で、他のアーティストが描いてくれない部分を描いてくれてるなって思ったり。なんかつらい時でもうっすら希望を感じさせてくれたり、その逆もしかりですよね。

一見楽しいように見えてもやっぱり影の部分を感じ取ってしまう…そんな感受性を持つリスナーに寄り添ってくれる歌を書いてくれるなぁ…っていうことを、今回「Lone Pine」であらためて感じました。

ちなみに、私の好きな天気は曇りです! みなさんはどうですか?

ライブ映像の魅力とYogiさん

「arizona」に続いてアメリカの異国ソングでしたが、ここでもブルースハープを吹いてるっていうのはまた稲葉さんの特徴かもしれないですね。外国になるとハーモニカ吹くっていう。まぁでもそれはすごくわかりますし、味があっていいなと思います!

enⅡのライブ映像がすごく素晴らしいので、ぜひまだの方は観てみてください。「友よ」の回で話したYogiさんですね。「足がでかい」でおなじみの(笑)Yogiさんのギターが本当に良くて!

稲葉さんとブルーハープのセッションをちょっと長めに繰り広げているので、そこも必見です。Yogiさんは私、B’z関係のサポートギタリストの中でトップクラスに好きな、おすすめのミュージシャンです!

「Lone Pine」については以上です。自分の生活と共に歩んでくれるような温かい曲だなって思います。

じゃあまた明日、別の曲でお会いしましょう。

おつかれ!

【今回言及した作品】

楽曲

  • arizona
  • 友よ

映像作品

コメント

タイトルとURLをコピーしました